SaaSの市場規模/成長性を考える

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「1,000社の導入実績があるSaaSです」この1,000社という数字に疑問を感じることはありませんか。1,000社の実績はすごい実績なのか普通なのか。シェアや今後の成長性はどうなのか。「1,000社の導入実績があるSaaS」を例としてSaaSの市場規模/成長性を考えてみたいと思います。


■国内の企業数から算出する

「SaaSの市場規模は905.9億ドルになります」より、「国内のターゲット企業数は100,000社で現在1,000社の企業で利用されています」という説明の方が、自社が属するSaaSの市場規模の説明として分かりやすいのではないでしょうか。

国内の企業数を算出する際に便利なのが総務省・経済産業省が発刊している「経済センサス」です。平成28年度のデータによると民営事業所数は557万8975事業所。この全てがSaaSのターゲットになるのかというとそうではありません。注意が必要なのは民営事業者数の9割を中小企業が占めるということです。

ここでは従業員数30人〜299人を中堅企業。300人以上を大規模企業と定義してターゲット企業数をまとめてみます。SaaSの提案余地は国内に325,181社あることがわかります。

企業規模企業数(社)
中堅企業312,958
大規模企業12,223
合計325,181

■クラウド導入率を掛け合わせる

325,181社のうち何社が既にクラウドを導入しているのでしょうか。クラウドの導入率に関しては、総務省の情報通信白書や民間の調査データなど様々なデータが発表されています。業種や従業員数、地域、また、導入状況(全社/一部)など調査方法によって導入率は異なります。

ここでは最近(2020年5月)発表されたガートナーの資料を引用したいと思います。ガートナーは「日本におけるクラウド・コンピューテイングの導入率は平均18%」という数値を発表しています。(※)

先ほどの国内の企業数にクラウド導入率(18%)を掛け合わせると、「クラウド導入済みの企業」と「クラウド未導入の企業」の概数が把握できます。

企業規模企業数(社)クラウド導入済クラウド未導入
中堅企業312,95856,332256,626
大規模企業12,2232,20010,023
合計325,18158,532266,649

■「1,000社の導入実績があるSaaS」を考える

最後に冒頭の質問に戻りたいと思います。「1,000社の導入実績があるSaaSです」。これを市場シェアとTAM(Total Addressable Market)という観点でご紹介します。TAMとはある製品やサービスが獲得することができる最大の利益機会を算出したものです。成長性がどれだけあるのかを議論する際に取り上げられる言葉です。

□市場シェア

大規模企業をターゲットにしたSaaSで考えると市場シェアはクラウド導入済み企業の45%になります(1,000/2,200)。非常に多くのシェアを持つSaaSであると言えます。

□TAM

中堅企業も加えたクラウド導入済み企業で考えるとシェアは1.7%(1,000/58,532)。クラウド未導入企業も加味するとシェアはわずか0.37%です。市場シェアという観点では導入率が低く見えますが、まだ導入が進んでいない開拓余地のある企業が非常に多く、対象となるSaaSはまだまだ成長性が高いビジネスであると捉えることができます。

市場シェアか、TAMかで同じ数字を対象としていても見え方は大きく異なってきます。また、市場規模の算出に関しては、「1社あたりの利用ユーザー数」「1ユーザー/1社あたりの単価」も大きく影響します。疑問に感じた点は公表されている調査データや要素分解して考えるとまた違った見え方になるのではないかと思います。

(*)出典:ガートナー, 2020年5月14日, “ガートナー、日本におけるクラウド・コンピューティングの導入率は平均18%との最新の調査結果を発表”https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20200514
「平均」は、SaaS、PaaS、IaaSなどのそれぞれの導入率を合計して項目数で割った値であり、実数ベースではありません。あくまでも傾向値として捉える必要があります。2020年1月に実施。