
香川県三豊市役所は、従来より計画的に推進してきたDX戦略をさらに加速させるため、全職員へ業務用スマートフォンを支給する大規模なモバイルDXに着手。HENNGE Oneを認証基盤として導入することで、職員に負担をかけない「パスワードレスな働き方」を実現しました。単なる電話の置き換えに留まらない、三豊市独自の戦略と導入効果について伺いました。
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1. 導入時:庁舎に戻る手間を排し、PBXの更新を好機に変えたモバイル戦略
香川県三豊市は、平成18年の7町合併以降、職員の働き方改革を重視した先進的な情報政策を継続しています。PBX*更新のタイミングが迫る中、情報システム部門が着目したのは、職員が抱える「情報アクセスの非効率性」という長年の課題でした。
*Private Branch Exchangeの略で、企業や組織内の電話システムを管理する「電話交換機」のこと

現場の切実なニーズ:「外で情報を見たい」
政策部門、健康福祉部門、建設部門など、外部に出る職員が多い部署から最も強く寄せられていたのは、「外でスケジュールを確認したい」「必要な資料をその場で見たい」というニーズでした。従来、業務用PCの持ち出し運用は手続きが煩雑で非実用的であり、職員は次のアクションを決めるためだけに庁舎に戻る必要があり、業務の「二度手間」が発生していました。
PBXの更新対応と、この業務非効率性を一気に解決するため、三豊市は2021年に全職員へ業務用スマートフォン約800台の支給を決断しました。
心理的抵抗をゼロにした「電話が置き換わっただけ」戦略
大規模なシステム変更やツールの導入には、職員からの抵抗がつきものです。そこで情報システム部門は、「これは新しいアプリやシステムではない。固定電話がスマートフォンに置き換わっただけ」と周知する戦略を取りました。
導入する側としては、その先にモバイルアクセス基盤の構築による段階的な業務改革という明確な目的がありましたが、あえてそれを表に出さず、職員の心理的ハードルを極限まで下げることに成功しました。
DXの最重要要件:「どのデバイスでもパスワードレス」
支給したスマートフォンから、グループウェアやメールへセキュアにアクセスできる環境を構築するにあたり、最も重視された要件が「どのデバイスでもパスワードレス」でした。
スマートフォン側では指紋認証によるパスワードレスを実現することに合わせ、PCからのアクセス時にもデバイス認証によるパスワードレスを実現させたいという強い思いがありました。これは、職員の利便性を高めることはもちろん、複雑なパスワードの管理や定期的な変更、使い回しなどに起因するヒューマンエラーによるセキュリティリスクを踏まえると、パスワード認証に伴う脆弱性を根本的に解消するべきと判断したためです。
HENNGE Secure Browserに切り替えることでコスト増を相殺できることも決め手になりました。
2. 導入後:セキュリティを担保し、職員の負担をゼロに

パスワードレスを実現させたHENNGE One
この「どのデバイスでもパスワードレス」という要件を実現するために導入されたのが、HENNGE Oneでした。
HENNGE Oneのデバイス証明書を活用することで、職員がPCから業務用システムへアクセスする際に、パスワード入力や二要素認証の煩雑な操作を排除することに成功。利便性を高めつつ、業務用システムにアクセスできるデバイスが限定されるためセキュリティレベルも担保されました。
スマートフォン側ではmoconaviの指紋認証、PC側ではHENNGE Oneのデバイス証明書が連携することで、三豊市が目指した「職員の負担をゼロにするパスワードレスの環境」が確立されました。
1週間の説明会で完了させた全職員の初期設定
新しいシステムやデバイスの導入において、職員側の初期設定にかかる手間は、利用定着を妨げる最大の障壁となりがちです。そこで、本稼働を支給スマートフォンの更新時期に併せて行い、全職員約800名を対象に、説明会を1週間かけて集中的に実施。その場で更新端末の配布、moconaviの指紋認証設定といった初期設定作業を全て完了させました。これにより、職員はデバイスを受け取ったその日からパスワードレスの環境で業務を開始することができました。
管理職からも「便利になった」の声
現場では早速「業務効率が上がった」「今までは庁舎に帰らないと進められなかった次のアクションをその場で進められるようになった」と、業務が劇的に改善されました。
特に、日々の業務量が多い管理職や30~40代の職員の利用率は高く、モバイルツールの活用が定着し始めています。また、PBX切り替えと合わせ、月間50万円の電話代削減効果があり、システム導入費用を実質的に吸収しています。
スマホ活用による他業務の向上
また、業務用スマートフォンの支給は、外出先での情報確認を容易にしただけでなく、行政サービス向上にも寄与することになりました。例えば、外注していた「選挙投開票速報システム」を、ノーコードツールのkintoneを使い内製化。業務用スマホ経由でリアルタイムに投票数の共有が可能になりました。さらに、翻訳アプリや文字起こしアプリを業務用スマホに入れることで、外国人窓口対応や会議の議事録作成といった間接業務の効率化にも貢献しています。
3.自前主義を支える体制と将来の展望
ブラックボックス化を防ぐ専門職体制
三豊市では情報システム部門に専門職員を2名配置し、システム構築や全職員分のキッティング作業(スマホ800台)などを自前で実施しています。これは、システムがベンダー依存によって「ブラックボックス化」することを防ぎ、長期的な視点で内製化を進めるための重要な取り組みです。
ガバメントクラウド対応とHENNGEへの期待
現在、職員の利便性をさらに高めるため、Microsoft 365の導入を進めています。これもHENNGE Oneによって業務用スマホからセキュアにアクセスできる環境を構築する予定です。
また、今後の大きな挑戦としては、ガバメントクラウド(ガバクラ)への対応、そして学校現場からの行政用PCへのリモートデスクトップ接続基盤の構築が挙げられます。
セキュリティと利便性を両立させるHENNGE Oneのソリューションを高く評価しており、「LGWAN外からのアクセス技術」など、次世代の働き方を支えるさらなる機能拡張に期待を寄せています。